シッダールタの出家の動機とされる四門出遊の伝説。
この話には神々の介入があったという言い伝えもあります。もともと心を閉ざしがちである王子が遠出を楽しめるようにとの父浄飯王のはからいで、老人や病人を王子の目の届くところに出してはいけないとお触れが出ていたというのです。
美しいもので覆われた光景しか見せてはならぬという、子への配慮であったのかもしれません。
しかしその様子をご覧になっていた神々が「今こそ王子に真実を見せ決断させる時だ」と、シッダールタの人生に働きかけ、老人や病人を出現させたというのです。
東と南の門それぞれにおいて老人と病人の姿を見て、暗い表情で城へ帰ったシッダールタは、今度は西の門から出かけます。
前述の説で考えるならば、当然ここでも浄飯王は、王子に楽園のような光景を見せるために、あらゆる楽しみを用意させていたでしょう。
しかしシッダールタが目にしたのは、横たわり動くことのない人の姿でした。
お伴に問いかけます。
「あれは何者であるか」
「あれは死人でございます。命をなくした者です。すべての人間は生まれてきて、生きている限り、死を免れることはできないのです」
老いることも病にかかることも、そして死んでしまうことも避けては通れないことを知ったシッダールタは、一層心が沈んでしまいます。
一説によると、この時ヤショーダラー妃がラーフラを出産したとも伝えられており、子の誕生を知ったシッダールタが「我が子よ。お前はどうして生まれたのか。お前もまた老いと病と死の道を歩むことになるのか」と嘆いたとも言われています。
最後にシッダールタは北の門から出かけます。そこで見たものは、イキイキとした修行者の姿でした。
お伴に尋ねます。
「あれは何者であるか」
「彼は修行者です」
「なぜあのように穏やかでいられるのか」
「老いや病や死の苦しみなど、あらゆる苦しみから解放される道を求めて修行しているからです」
この出会いが、シッダールタのその後の人生に大きく影響を与えたといっても過言ではありません。
城の中の生活のように、娯楽が快楽を招く世界とはかけ離れた聖なる道を極めることこそ、私が本当に求めていたものかもしれない、とシッダールタは思い立ち、ついに城を出る決意をしたのです。それはもはやヤショーダラー妃やラーフラ、そして父である浄飯王との決別をも意味していました。