不自由を知らない生活に恵まれ、周囲の寵愛をうけ、文武両道の教育を身につけ、将来は一国を背負う王となるべきはずのシッダールタが、そもそも出家までして求めていたのは何だったのでしょうか。
王子には王子としての、あるいは一人の人間としての苦悩が、表面的にみられる満足感ある生活の裏で、内面的に彼を苦しめていたのかもしれません。
そうした彼の心境が、聖なる道を求めるきっかけとなり、出家に及んだのでしょう。
お伴のチャンダカと愛馬カンタカを城へ戻し、シッダールタはいよいよ独りになりました。
身につけていた衣装は、装飾品を全て取り除いたとはいえ、まだ純白の綺麗な絹の服を着ていました。
なのでまずは修行者らしい格好になることを求めました。
出家というのは本来何も所有しないとされます。
そして修行者が身につける服は、使い捨てられた布切れで作られたもの、つまり糞掃衣(ふんぞうえ)を理想とし、持ち物は食物をうけるための鉢ひとつだけなのです。
たまたまシッダールタの近くを、修行者の姿をした人が通りかかりました。
彼は猟師でした。なぜ猟師が修行者の格好をしていたのでしょうか。
早速シッダールタは自分が着ている服と、猟師が身につけていた修行者の服を交換してもらうよう頼みました。
「あなたは猟師なのにそのような服では相応しくありません。わたしもまた修行の身であるのに、この服は相応しくありません。あなたの服とわたしの服を交換してもらえないでしょうか」
すると猟師は、
「修行者の服は獣たちが安心して近づいてくるから都合がよいのです。しかしお見受けするところ、あなたは真の修行者と拝見しました。お望みならばわたしの服とお取替えいたしましょう」
と言って、交換されたのです。
実はこの猟師、ある一人の神が変身し、シッダールタが聖者の道を究められるよう、彼を後押しするために現れたものとして伝えられています。